火薬庫
本文約10,500字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
日露戦争最中の師団所在地で、会社員の佐山が川辺で向田大尉に遭遇する。同じ頃、師団の火薬庫へ向かった大尉が哨兵によって銃剣で突かれる事件が発生する。現場へ駆けつけた関係者たちは大尉の姿を確認するが、後にその遺体は狐にすり替わったとされる。やがて大尉は退職し東京へ去るが、その背景には本人の大尉ではなく、容姿の似た弟が引き起こした事件と、それを隠蔽する周囲の意図が推測される。
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例の青蛙堂主人から再度の案内状が来た。それは四月の末で、わたしの庭の遅桜も散りはじめた頃である。定刻の午後六時までに小石川の青蛙堂へ着到すると、今夜の顔ぶれはこの間の怪談会とはよほど変わっていた。例によって夜食の御馳走になって、それから下座敷の広間に案内されると、床の間には白い躑躅があっさりと生けてあるばかりで、かの三本足の蝦蟆将軍はどこへか影をひそめていた。紅茶一杯をすすり終った後に、主人は一座にむかって改めて挨拶した。
「先月第一回のお集まりを願いました節は、あいにくの雪でございましたが、今晩は幸いに晴天でまことに結構でございました。今晩お越しを願いました皆様のうちには、前回とおなじお方もあり、また違ったお顔も見えております。そこで、こう申上げると、わたくしは甚だ移り気な、あきっぽい人間のように思召されるかも知れませんが、わたくしは例の怪談研究の傍らに探偵方面にも興味を持ちまして、この頃はぼつぼつその方面の研究にも取りかかっております。もちろんそれも怪談に縁のないわけではなく、いわゆる怪談と怪奇探偵談とは、そのあいだに一種の連絡があるようにも思われるのでございます。わたくしが探偵談に興味を持ち始めましたのも、つまりは怪談から誘い出されたような次第でありまして、あながちに本来の怪談を見捨てて、当世流行の探偵方面に早変りをしたというわけでもございませんから、どうぞお含み置きを願いたいと存じます。就きましては、今晩は前回と違いまして、皆様から興味の深い探偵物語をうけたまわりたいと希望しておりますのでございますが、いかがでございましょうか。」
青蛙堂鬼談が今夜は青蛙堂探偵談に変ろうというのである。この注文を突然に提出されて、一座十五、六人はしばらく顔を見合せていると、主人はかさねて言った。