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TORENDIA

真鬼偽鬼

本文約10,800字 ・ 読了時間 約22分

あらすじ(AIが作成しました)

文政四年の江戸、南町奉行所の与力秋山嘉平次は、雨の夜の帰り道に謎の声を聞く。それは本所柳島で殺された職人伊兵衛を名乗るものからの訴えであった。時を同じくして、伊兵衛殺しの容疑で捕らえられていた甚吉と深い関係を持つ女お園や、伊兵衛の弟伊八を巻き込み、奇妙な事件が続発する。偽りの幽霊騒ぎが明らかになる一方で、秋山は真実を求めて複雑に絡み合う人間模様と、説明のつかない怪異の正体を追い求めていく。

岡本綺堂

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一

文政四年の江戸には雨が少なかった。記録によると、正月から七月までの半年間にわずかに一度しか降雨をみなかったという事である。七月のたなばたの夜に久しぶりで雨があった。つづいて翌八日の夜にも大雨があった。それを口切りに、だんだん雨が多くなった。

こういう年は、いわゆる片降り片照りで、秋口になって雨が多いであろうという、老人たちの予言がまず当った方で、八月から九月にかけて、とかくに曇った日がつづいた。その九月の末である。京橋八丁堀の玉子屋新道に住む南町奉行所の与力秋山嘉平次が新川の酒問屋の隠居をたずねた。

隠居は自分の店の裏通りに小さい隠居所をかまえていて、秋山とは年来の碁がたきであった。秋山もきょうは非番であったので、ひる過ぎからその隠居所をたずねて、例のごとく烏鷺の勝負を争っているうちに、秋の日もいつか暮れて、細かい雨がしとしとと降り出した。秋山は石を置きながら、表の雨の音に耳をかたむけた。

「また降って来ましたな。」

「秋になってから、とかくに雨が多くなりました。」と、隠居も言った。「しかしこういう時には、少し降った方が気がおちついて好うござります。」

ここで夕飯の馳走になって、二人は好きな勝負に時の移るのを忘れていた。秋山の屋敷ではその出先を知っているので、どうで今夜は遅かろうと予期していたが、やがて四つ(午後十時)に近くなって、雨はいよいよ降りしきって来たので、中間の仙助に雨具を持たせて主人を迎えにやった。

「明日のお勤めもござります。もうそろそろお帰りになりましてはいかが。」

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