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TORENDIA

遺稿

本文約560字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

泉先生の死後、遺族によって机の奥から発見された無題の小説について綴る。筆と墨で書かれた原稿用紙の古さや、主人公の名が「縷紅新草」と共通している点から、執筆時期を推察する。著者が生前最後に完成させた作品以降の時期に書かれた可能性を示唆しつつ、無題のまま掲載するに至った経緯を説明する付記である。

水上瀧太郎

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この無題の小説は、泉先生逝去後、机辺の篋底に、夫人の見出されしものにして、いつ頃書かれしものか、これにて完結のものか、はたまた未完結のものか、今はあきらかにする術なきものなり。昭和十四年七月号中央公論掲載の、「縷紅新草」は、先生の生前発表せられし最後のものにして、その完成に尽くされし[#「尽くされし」はママ]努力は既に疾を内に潜めいたる先生の肉体をいたむる事深く、その後再び机に対われしこと無かりしという。果して然らばこの無題の小説は「縷紅新草」以前のものと見るを至当とすべし。原稿はやや古びたる半紙に筆と墨をもって書かれたり。紙の古きは大正六年はじめて万年筆を使用されし以前に購われしものを偶々引出して用いられしものと覚しく、墨色は未だ新しくしてこの作の近き頃のものたる事を証す。主人公の名の糸七は「縷紅新草」のそれとひとしく、点景に赤蜻蛉のあらわるる事もまた相似たり。「どうもこう怠けていてはしかたが無いから、春になったら少し稼ごうと思っています。」と先生の私に語られしは昨年の暮の事なりき。恐らくこの無題の小説は今年のはじめに起稿されしものにはあらざるか。

雑誌社としては無題を迷惑がる事察するにあまりあれど、さりとて他人がみだりに命題すべき筋合にあらざるを以て、強てそのまま掲出すべきことを希望せり。

(水上瀧太郎附記)

完

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