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TORENDIA

冬のちょう

本文約3,000字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

秋の半ば、産卵場所に悩む美しい女ちょうは、がまがえるからかつて蝶が溢れていた黄金時代の話を聞く。それは同時に、人間に殺虫剤で駆除される過酷な現実を教えられることでもあった。女ちょうは卵をからたちの木に託して飛び去り、やがてその卵から孵化した青虫が冷たい朝に震える。その姿を見た人間は、花や光、そして社会から自由や芸術が失われた時代に生まれた子供たちの運命を重ね合わせ、哀れみを込めて嘆く。

小川未明

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🎧 冬のちょう / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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すがすがしい天気で、青々と大空は晴れていましたが、その奥底に、光った冷たい目がじっと地上をのぞいているような日でした。

美しい女ちょうは、自分の卵をどこに産んだらいいかと惑っているふうでありました。なるたけ暖かな、安全な場所を探していたのでした。

もう、季節は秋の半ばだったからです。その卵が孵化して一ぴきの虫となって、体に自分のような美しい羽がはえて自由にあたりを飛べるようになるには、かなりの日数がなければならぬからでした。

「ああ、かわいそうに、こんな時分に生まれてこなければよかったのに……。」といって、女ちょうはまだ見ない子供のことを憂えたのでありました。

彼女は、さらに、そのような心配をしなくてはならぬ、自分をも不幸に考えたのでありました。

「なぜ、私は、もっと日の長い、そしていろいろの花がたくさんに咲いている時分に、この世の中へ生まれてこなかったのだろう。」と、思わずにいられなかったのです。

どこか、庭の捨て石の下からはい出てきた、がまがえるが、日あたりのいい、土手の草の上に控えて、哲学者然と瞑想にふけっていましたが、たまたま頭が上へ飛んできた、女ちょうのひとりごとをきくと、目をぱっちりと開けて、大きな口で話しかけました。

「そのころの世の中のことなら、私がよく知っている。話してきかせるから、木の葉にとまってすこし休みなさい。」

女ちょうは、びっくりしました。そこにいて、さっきから獲物をねらっていた、恐ろしい怪物に気がつかなかったのでした。

「私は、おまえをとろうとは思っていない。私は、いまなにもたべたくない。静かに、昔のことを思っていたのだ。春から夏にかけては、私たち、生物は、だれもかれも幸福なものだった。それから見れば、いまのものは、かわいそうだと思うよ。」

こうがまがえるがいったので女ちょうは、自分に同情してくれるものと思って、立ち上がったのを、引き返してきて、かたわらの一つの葉の上に止まりました。

「後生ですから、私のお母さんや、お父さんたちの、黄金時代のことを話してください。きくだけでも、生まれてきたかいがありますから。」と、彼女は、頼みました。

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