鳴門秘帖
本文約56,300字 ・ 読了時間 約113分
あらすじ(AIが作成しました)
中仙道を進むお綱と万吉を、浪人のお十夜、一角、周馬が追う。旅の果てに何を得られるのかと悩む周馬は仲間と対立する。一方、剣山の麓では、逃亡を図るお米が啓之助と激しく感情をぶつけ合う。やがて、法月弦之丞が万吉とお綱の救出に現れる。追っ手との死闘の末、夜の帳が降りる中、金剛雲の下で鮮血が散る。争いは夢幻のように消え去り、何事もなかったかのように静かな夜明けの木曾の往還に、街道の日常が戻る。
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送り狼
未明のうちに、本郷森川宿を出たお綱と万吉とが、中仙道をはかどって、もうそろそろ碓氷峠の姿や、浅間の噴煙を仰いでいようと思われる頃、――三日おくれて、同じ中仙道の宿駅に、三人づれの浪人を見ることができる。
それが、例の、お十夜と、一角と周馬であった。
こん度の旅は、無論、お綱と万吉のあとを追って、そのうえに、法月弦之丞を刺止めるまでの目的だろうに、わらじ、野袴、編笠という、本格の支度をしているのは天堂一角だけで、周馬は笠なし、お十夜は、笠もわらじも嫌いだといって、素のまま着流しに草履ばきという風態。
まだ軽井沢ぐらいはいいが、それから先の和田峠、猪の字ヶ原の高原、木曾の※所[#「土へん+刀」、U+2F850、145-11]などへかかったら、どうする気だろうと思われるが、小手調べの碓氷峠でも、さして難儀な顔もみせないところは、お十夜も周馬も、旅にはひとかどの見識をもつものとみえる。
「はてな? ……まさか、おれたちの行く道が見当違いをしているのじゃあるまいな」
上田の城下へ入る前に、追分の辻から佐久街道へ折れて、青々とした麦畑や、菜の花に染め分けられた耕地や森や、千曲の清冽などを見渡しながら、フイに、お十夜がこう言いだした。
「なぜ?」
と、ふりかえったのは天堂一角。
根岸の闇で、法月弦之丞にやられた太刀傷が致命にいたらなかったまでも、かなり深傷であったとみえて、いまだに左手を首に吊っているのが、いかにも暴勇な剣客らしく目立って、往来の者が必ず、ふりかえってゆく。
「冗談じゃアねえ」
と、お十夜はふところ手で、
「もう江戸から四十里余り、三晩も泊りを重ねているのに、行っても行っても、万吉とお綱の姿が先に見当らねえじゃアねえか」
「そのことなら心配は無用だ。まさかに使屋の半次が、口から出放題なことを言いはしまい」
「それなら、もうたいがいに追いついている筈だが」
「イヤ大丈夫。実は小諸の立場で念入りに聞いておいたことがある。ちょうど、きのうの朝立ちで、それらしい二人づれが、間違いなくこの街道へ折れたという問屋場の話であった」