白いくま
本文約4,500字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
熱い国の動物園に連れてこられた北極生まれの白いくまは、当初は脱走を試みるものの、次第に人間の優しさやチョコレートの味に慣れ、かつての故郷を忘れていく。歯を失い無害になったところを香具師に引き取られ、見せ物としてダンスを披露するようになる。環境の変化が生き物の性質をも変えてしまう様を描き、故郷を離れて異国の地で生きる悲哀と適応を浮き彫りにする物語である。
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そこは、熱い国でありました。日の光が強く、青々としている木立や、丘の上を照らしていました。
この国の動物園には、熱帯地方に産するいろいろな動物が、他の国の動物園には、とうてい見られないほどたくさんありましたが、寒い国にすんでいる動物は、なかなかよく育たないものとみえて、あまり、数多くはありません。その中に、一ぴきの白いくまが、みんなから珍しがられ、またかわいがられていました。
なにしろ、木立の柔らかな葉が、きらきらと光って、いつかはあめのように溶けてしまいそうにみえるほどの熱いところでありましたから、寒い、寒い、氷山の上にすんでいるしろくまを飼っておくことは、まったく容易ではなかったのでした。
大きな水たまりを造って、その中へ、氷のかけらを投げいれておきます。くまは、熱さにこらえられないので、幾度となく、その水の中に浸ります。そして、バシャバシャと水をはねかえして、冷たい氷水を浴びたときだけ、わずかに、自分の生まれた北の故郷にいた時分のことを思い出したり、また、ちょっと、その当時の気持ちになったのであります。
あちらには、どんよりとして、いつも眠っているような海が見えました。その海は、おしで、盲目なのだった。なぜなら、ものすごい叫びをあげている波は、みんな口を縫われてしまって、魚のうろこのように、海はすっかり凍っていたからであります。そして、氷山が、気味悪く光って、魔物の牙のように鋭く、ところどころに、灰色の空をかもうとしていたからです。
脂肪のたくさんな、むくむくと毛の厚いしろくまはそこを平気で歩いていました。また、氷が解ける時分になれば、険しい山の方へのこのこと帰ってゆきました。広い寂しい天地の間を自由にふるまうことができたのでした。
それが、いまどうでしょう。熱い、熱い、知らない国に連れてこられて、狭い鉄のおりの中へいれられてしまったのです。はじめのうちは、腹だたしいやら、残念やらで、じっとしていることができませんでした。かんしゃくまぎれに鉄の棒を折り曲げて、外へ暴れ出してやろうと、何度となく、そのおりの鉄棒に飛びついたかしれません。