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TORENDIA

ヴェニスに死す

本文約83,500字 ・ 読了時間 約167分

あらすじ(AIが作成しました)

ミュンヘンの作家アッシェンバッハは、散歩の途中で見かけた見知らぬ男に触発され、旅への強い欲望を抱く。その後、ヴェニスを訪れた彼は、浜辺で端麗な少年タッジオを見初める。精神的な自制と生活の均衡を保っていた芸術家が、少年の美に抗い難く魅了され、自らの内面にある情熱と対峙する過程を描く。芸術と生の宿命的な関係や、純粋な美への渇望が引き起こす激しい心情の変遷を辿る物語である。

トオマス・マン Thomas Mann

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第一章

グスタアフ・アッシェンバッハ――または、かれの五十回目の誕生日以来、かれの名が公式に呼ばれていたとおりに言うと、フォン・アッシェンバッハは、一九××年――これはわれわれの大陸に対して、幾月ものあいだ、じつに脅威的な様子を見せた年だったが――その年の春のある午後、ミュンヘンのプリンツレゲンテン街にある自宅から、ひとりで、かなり遠くまで散歩に出かけた。午前中の、めんどうな危険な、今まさに最大の慎重と周到と、意志の透徹と細密とを要する労作で興奮しすぎて、この作家は、自分の内部にある生産的な機関の不断の振動を――ツィツェロによれば、雄弁の本体にほかならぬ、あの「精神のたえざる動き(motus animi continus)」を、昼食後にもやはり制止することができなかった。そして気持を軽くしてくれるまどろみを見いださなかった。これは精力がますます消耗されやすくなっているこのさい、かれにとって、途中で一度はぜひ必要だったのだが。そこでかれは、茶をのみ終るとまもなく、空気と運動が元気を回復させ、有効な一夕をえさせてくれるだろうという望みをいだいて、戸外を求めた。

それは五月はじめのことで、湿気の多い寒い幾週日のあと、うその真夏が不意にきていた。イギリス公園は、つい若葉が出はじめたばかりなのに、八月ごろのようにむっとこもっているし、町の近郊は馬車や散歩の人たちでいっぱいだった。しだいに静かになってゆく通りから通りへとたどりながら、アウマイスタアの店までくると、アッシェンバッハは、民衆でにぎわっているその料亭の庭を、しばらくながめ渡したのち――庭のへりには、辻馬車や自家用の馬車がとまっていた――そこから、かたむく日ざしのなかを、公園の外側のひろびろとした広野を越えて、家路についた。そして疲れをおぼえていたし、フェエリングの上方に雷雨がせまっていたので、一直線に町までつれもどしてくれるはずの電車を、北部墓地のところで待っていた。

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