TRENDIA CLASSIC

鉄道事故

トオマス・マン Thomas Mann

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なにか話せ? しかしなんにも知らないのだがね。まあいいや。じゃなにか話すとしよう。

もう二年になるが、一度僕は汽車の事故に出くわしたことがあるのだ――一々のこまかいことまで、みんなありありと眼に残っているよ。

そりゃ決して最大級のやつじゃなかった。「弁別しがたき無数の死者」とかなんとかいうような、大げさなやつじゃなかった。そんなのとは違う。でもやっぱり、あらゆる附録の備わった、正真正銘の鉄道事故でね、しかもおまけに夜あったんだ。こんな目にあった人はそうざらにはあるまい。だから、それをひとつお聞かせしよう。

僕はその時、ドレスデンへむかう途中だった。文学奨励者たちに招待せられてね。つまり芸術行脚、名匠行脚という、僕が今でも時々出かけるのにやぶさかでないやつさ。代表者になる。演壇に昇る。喝采する群衆に姿を示す。ヴィルヘルム二世の臣たるに恥じずというわけだ。それにまたドレスデンは全くいいところだからな(ことにあの牙城はね)。そして僕は用がすんだら、十日か二週間ぐらい、いささか英気を養うために、「ワイセル・ヒルシュ」へ行って、摂生の結果、霊感でも得られたら、また仕事もしてみるつもりだった。という次第で、鞄の一番底には、原稿を入れておいた。備忘録と一緒にしてね。茶色の包み紙でくるんだ上を、バイエルンの国色の太い紐でしばった、どうどうたるひと包みさ。

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