TRENDIA CLASSIC

餓えた人々(習作)

トオマス・マン Thomas Mann

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デトレフは自分が余計者だという感じに、胸の底までおそわれるのを覚えた瞬間、まるで偶然のように、賑やかな人ごみに身をただよわせて、別れの挨拶もせず、あの二人の人の子の視線から消えてしまった。

彼が身をゆだねた人波は、豊麗な劇場内の一つの側壁に添うて、彼を運んで行った。そしてリリイとあの小さな画家から、ずっと遠のいたと思った時、はじめて彼は流れに逆らって、しっかりと踏みとどまった。そこは舞台の近くで、彼は特等席の、こってりと金で飾られた張出しのところへ身をもたせながら、ひげだらけなバロック式の男体支柱が、重そうに背を丸めているのと、それの対に当る女体が、張り切った両の乳房を、場内へ突き出しているのとの間に立ったのである。時々、オペラグラスを眼へあてがいながら、彼は精々できるだけ、気楽そうな観照の態度を示すことに努めた。ただし彼の四方へさまよう視線は、輝かしい一円のうち、ただ一点だけは避けていた。

祝宴はたけなわであった。張り出した特等席の奥では、整えられたテエブルについて、みんな食べたり飲んだりしているし、張出しのへりのところでは、黒や色の燕尾服を着て、ボタンの穴に大きな菊の花をさした紳士たちが、奇抜な衣裳に、調子外れな髪を結った淑女たちの、白粉を塗った肩のほうへ身をかがめて、なにかしゃべりながら、場内のめまぐるしい群衆を指さしている。群衆はいくつものかたまりにわかれたり、流れるように押して行ったり、せきとめられたり、渦をなしてもつれ合ったり、と思うと、すばやく色を入り乱れさせながら、またすっと解けてしまったりする。

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