TRENDIA CLASSIC

幸福への意志

トオマス・マン Thomas Mann

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老ホフマンはその金を、南アメリカの耕地の持主として、儲けたのであった。彼地で家柄のよい土着の娘と結婚してから、まもなく妻を連れて、故郷の北ドイツへ引き移った。二人は僕の生れた町で暮していた。ホフマンのほかの家族たちも、そこに住みついていたのである。パオロはこの町で生れた。

その両親を僕は、しかしあまりよく知らなかった。が、ともかくパオロはお母さんに生き写しだった。僕がパオロをはじめて見た時、つまり両方の父親たちが僕等をはじめて学校に連れて行った時、パオロは黄ばんだ顔色の、やせこけた小僧だった。今でも眼に浮かんでくる。彼はその時、黒い髪の毛を長くうねらせていたが、それがもじゃもじゃと水兵服の襟に垂れかかって、小さな細面をふちどっていた。

僕等は家では非常に仕合せに暮していたのだから、新しい周囲――殺風景な教室や、なかんずく僕等にぜひともABCを教えようとする、赤髯の小汚ない人間どもには、どうしても不服だった。僕は帰って行こうとする父親の上着を、泣きながらつかんで放さなかったが、パオロのほうは、まるで忍従の態度を取っていた。身動きもしないで壁によりかかって、薄い唇をきっと結んだなり、涙で一ぱいの大きな眼で、景気のいいほかの少年たちを眺めていたのである。その連中は横腹を突つき合いながら、冷酷ににやにや笑っていた。

こんな調子で怪物どもに取り囲まれていたので、僕等ははじめから、互いに惹きつけられるような気がした。だから、赤紫の教育家が僕等を隣同士に坐らせてくれた時には、嬉しかった。それ以来、僕等は団結してしまって、共々に教育の基礎を築いたり、毎日、弁当のパンの交易を営んだりした。

思い出して見れば、彼はしかしもうその時分から虚弱だった。時々かなり長く学校を休まされたが、再び出てくると、いつも彼のこめかみと頬には、平生よりなお明らかに、薄青い脈管が現われていた。かぼそい、浅黒い肌の人に限って、よくあるやつである。彼のはその後もずっと消えなかった。このミュンヘンで再会した時にも、それからあとロオマで逢った時にも、第一番に僕の眼についたのはそれだった。

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