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TORENDIA

トビアス・ミンデルニッケル

本文約8,600字 ・ 読了時間 約18分

あらすじ(AIが作成しました)

灰色通りに住むトビアス・ミンデルニッケルは、誰からも疎まれ、常に嘲笑を浴びて生きる孤独で風変わりな男である。ある日、負傷した一匹の犬を見つけた彼は、その犬を連れ帰りエザウと名付ける。怪我を負った犬を献身的に看病し、憐れみの情を注ぐことに悦びを見出すトビアスだが、犬が回復し活力を取り戻すにつれ、彼の態度は次第に変化し、歪んだ衝動を抱きはじめる。本作は、他者の苦痛を介することでしか自身の存在意義を確認できない男の倒錯した心象風景を描く。

トオマス・マン Thomas Mann

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河岸小路から、急な上り坂になって、市内へ通じている往来の一つに、灰色通りというのがある。その通りの中程、河のほうから来れば右手に、四十七番地の家が立っている。幅の狭いくすんだ色の建物で、隣近所の家々とちっとも変ったところはない。この建物の地階には、套靴やひまし油まで売る荒物屋がある。猫のうろついている中庭を見通しながら、玄関口を入って行くと、狭い踏み減らされた、なんともいえずうっとうしい貧乏臭いにおいのただよう木造の階段が、上へ通じている。二階の左手には指物師が、右手には産婆が住んでいる。三階の左手には靴直し、右手には、階段に足音が聞えると、すぐ大声で歌いはじめる一人の婦人が住んでいる。四階では、左手の住居は空で、右手には苗字をミンデルニッケル、おまけに名前をトビアスという男が住んでいる。この男について一つの話がある。それはなぞのような、とても考えられないほど破廉恥な話だから、私はぜひ語ろうと思う。

ミンデルニッケルの外貌は、突飛で風変りで滑稽なものである。例えば彼が散歩をしている時なぞに、痩躯をステッキで支えながら、往来を進んでゆくところを見ると、彼は真黒ななりをしている。しかも、頭から足の先まで黒ずくめなのである。旧式な曲った、けば立ったシルクハットと、窮屈そうな、古さで光っているフロックコオトと、裾のほうがささくれていて、半長靴のゴムの縫込みが見えるほど短かい、これも劣らず見すぼらしいズボンとを着けている。しかしこの服には、この上なくきれいにブラシのかかっていることを、ことわっておかねばならぬ。細い頸は、低い折襟から突き出ているせいで、いよいよ長く見える。半白の髪は、ぺたりとこめかみへかぶさるようになでつけてあって、シルクハットの広いつばが、かみそりの当った土気色の顔に、影を作っている。顔にはこけた頬と、めったに上を向かない、ただれた眼と、垂れさがった口の両端まで、陰気に鼻から走っている、二本の深い皺とがある。

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