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TORENDIA

衣裳戸棚

本文約8,800字 ・ 読了時間 約18分

あらすじ(AIが作成しました)

急行列車で眠りについたアルプレヒト・ファン・デル・クワアレンは、見知らぬ土地で目を覚ます。時刻や場所を知ることを避けて生きてきた彼は、ふらりと入った安宿で出会った女から、毎晩語られる物語に耳を傾けるようになる。虚実の狭間にあるような不確かな町で、彼は女の語る悲しくも快い物語を享受し、時の感覚を失ったまま、幻想的な日々を重ねていく。

トオマス・マン Thomas Mann

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ベルリン―ロオマ行の急行列車が、ある中ぐらいな駅の構内に進み入ったのは、曇った薄暗い肌寒い時刻だった。幅の広い、粗ビロオドの安楽椅子に、レエスの覆いをかけた一等の車室で、あるひとりの旅の客が身を起した――アルプレヒト・ファン・デル・クワアレンである。彼は眼を醒ましたのである。口の中に、なんだかまずい味が感ぜられる。そしてからだは、あのあまり愉快でない感じでみたされている。やや長く走った後の停止と、リズムをなしてとどろいていた車輪のひびきの終息と、呼び声や警笛など、窓外の騒音を、妙に意味ありげに際立たせる静寂とによって呼び起される、あの感じである。――これはちょうど陶酔や麻痺から、我に返った時のような心境である。われわれの神経からは、今までそれがもたれていた支え、つまり、リズムが、突然取り去られてしまう。そこで神経は、非常にみだされたような、取り残されたような感じを受ける。しかもわれわれがそれと同時に、重苦しい旅の眠りからさめる時には、なおさらその感じがはなはだしいのである。

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