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TORENDIA

探偵小説と犯罪事件

本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

東京の芝公園で発生した殺人事件を機に、探偵小説と犯罪事件の相互関係や捜査手法について考察を綴る。著者自らが手口による捜査術の基本を用いて犯行過程を予測した事例を紹介し、探偵小説家としての知見を述べる。また、探偵小説が犯罪を誘発するという俗説や、作中の捜査術の有用性に関する誤解を論じることで、物語と現実における犯罪というトピックを多角的に検証し、両者の関係性に対する自身の見解を記した随筆である。

海野十三

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🎧 探偵小説と犯罪事件 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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探偵小説と犯罪事件との関連性についてはいつの世にも論じられるものであるが、最近の世相はまた事新しくこのトピックを取上げる機会を孕んでいるようだ。そこで稍先廻りをしてここに簡単なメモを書きつけておきたいと思う。

具体的な例話から入って行くのが便宜であると思う。この夏、東京の芝公園内で若い婦人の裸死体が発見され、それが絞殺によって落命したものであり、暴行を受けていることも確認された。なおそこからさほど遠からぬところにもう一つの白骨化した絞殺婦人死体があることも序に発見された。これは裸体ではなく着衣のものだった。

この事件は、読者も既に知って居られるとおり、数日後その犯人小平某なる者が検挙されて解決した。

その犯人就縛前、東京ではこの残虐事件について大反響を惹起し、都民の不安は大きくなったのであるが、そのとき都下の新聞は事件現場附近の地理や拾得せる遺棄物件について詳細に報道した。こういう詳しい報道は、かのおさだ事件以後には見られなかったものである。この報道は、都民たちに犯人推定を流行らせた。

私の許へも某紙から問合わせがあった。そこで報道された材料だけによって次の三点を答えた。(一)犯人と被害者とは知合いの間柄である。裸体にしたのは着衣などで被害者の身許が知れるのを防ぐためで、身許が分れば、すなわち被害者と知合いの犯人が分ってしまうからだ。(二)被害者の履物が発見されるなら、その所在や状況によって、致死の過程や犯行が推定できるであろう。(三)別の白骨屍体の方も、同一犯人の仕業である。そのわけは、手口が同じと思われること、及び同一場所を利用するのは犯人の常道であること(その自信は犯罪淫楽性による)、別の犯人による犯罪現場の暗合は殆んど生ぜざるものであることによる。

右の予想の(二)は別として、(一)(三)とは後に小平某の告白によって事実であることが証明された。

「さすがに探偵小説家だけあって、ちゃんと当るんだね。こわいなあ」と一友人はいった。

「探偵小説を読んでいれば、こんなことは朝飯前だよ」と私は、ふざけて言った。

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