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TORENDIA

泥炭地双話

本文約5,800字 ・ 読了時間 約12分

あらすじ(AIが作成しました)

北海道の泥炭地の晩秋に見られる特有の色彩と景観を綴り、厳しい自然環境で営みを続ける人々の苦労に触れる。さらに、食糧難解決のための泥炭地開発を農業物理学の観点から論じる。排水や客土、地温上昇といった解決すべき物理的課題を挙げ、科学的な研究の重要性を説く。

中谷宇吉郎

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🎧 泥炭地双話 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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美しき泥炭地

北海道の景色の美しさの中で、比較的看逃されているのは、泥炭地の景色の美しさである。特に私は、晩秋の泥炭地の風趣とその色彩とに心を惹かれる。

冬を間近にひかえて、北国の空は毎日のように、鼠色の厚い層雲に蔽われる。そしてそういう空の下では、よく地平線の近くだけが綺麗に晴れていることが多い。そういう時には、その晴れ間は大抵は薄青磁色に冷たく透明に光っている。荒漠たる泥炭地の地平線は、水平な一線となって、この光った空の下をくっきりと区切っている。

みずごけや背の低い雑草で蔽われた一望の草原は、よしやすげの叢がせめてもの風情である。稀に痩せたはんの木が二本三本ようやくに生い立っていることもあるが、それらはむしろ心を痛ましめる点景である。夏の間じめじめと足を濡らしていたこの湿地帯も、秋の水枯れとともに、すっかり乾いて来ている。足を踏み入れてみると、軟かい蒲団の上を歩くように、土地が一足ごとに浮き沈みする感じである。

晩秋のこの草原の美しさは、そういう感触よりも、むしろその色にある。よしもすげももう半ば枯れて、その生命のしるしである緑の色は、土黄色の枯葉の底に、かすかに残っているに過ぎない。その土黄色にも沢山の白が雑っている。この白の勝った土黄色と、名も無い雑草どもの茶色との混淆が、晩秋の泥炭地帯の草原を特徴づける基調の色である。眼に立つ色ではないが、人の心を惹く美しさである。それは手近に譬えるものがない独特の色彩であって、正倉院に秘められている纐纈染の色くらいが、これに比さるべきものであろう。

こういう色彩が、強く人の心を惹くのは、それがこの北国の冬をひかえた空の特殊の光と、よく調和しているためかもしれない。しかしそれよりも、もっと人間の生命に直接関係した理由があるのであろう。それは土地の乾く喜びとでも言うべきものが、蔭の深いところで働いているためではなかろうか。

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