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TORENDIA

エスキモーの国から

本文約12,700字 ・ 読了時間 約26分

あらすじ(AIが作成しました)

グリーンランドのチューレ近郊、タトウのベース・キャンプに滞在する著者が、氷冠上にある観測地点への出立を控え、極地の環境や現地の様子を綴る随筆。国際会議での人工雪研究をめぐる英国人研究者との連携の模索や、科学的な興味から人工衛星や流星球について考察する。さらに、海外での経験に基づき、英語を学ぶ若手科学者への助言などを交え、研究者の視点から世の様々な出来事を記録する。

中谷宇吉郎

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世はさまざまの話

五月の末に日本を立って、米国の東海岸に面した避暑地ウッズホールで、三日間の会議をすませ、昨日グリーンランドのチューレへ着いた。そこから十四マイルばかり氷河のモレインの原を行くと、氷冠にとりつく。そのすぐ手前のところに、タトウのベース・キャンプがある。

ここは、グリーンランドでも、ずっと北の端近いところで、北極点までは、あと八百マイルくらいしかない。北極圏の中でも、ずっと北に寄ったところで、六月十二日というのに、まだチラチラ雪が降っていた。

忙しい旅行を終えて、このタトウのベース・キャンプに落ちついたら、何だかホッとして、日本へ便りを書いてみる気になった。グリーンランドも三年目になると、大分北極ずれがしたようである。

日本から持ってきた機械も全部無事届いたので、二、三日このベース・キャンプで準備をととのえて、近く氷冠上二百四十マイルの奥地にある観測地点へ出かけることにしている。

この氷冠というのは、大昔から降り積った雪が氷化したもので、面積が日本の六倍、氷の厚さが平均して二千二百メートルという、とんでもない大きい氷の大陸である。タトウのベース・キャンプから観測地点まで、見渡す限りの雪の原で、黒いものは何一つ見られない。その中を、二百四十マイルというと、東京から米原くらいまでの距離を、橇にゆられて行くわけである。

昨年までは、スイングという大型の橇を使っていた。橇つきの車輛を、列車編成にして、重油のトラクターを機関車にして引っぱって行くものである。これだと最良の状態でまる三日間、普通は五日間くらいかかる。今年は雪上車が改良されて、二十四時間で行けることになった。多分明日出発するはずであるが、うまく行けばよいがと思っている。

この観測地点は、日本の六倍もある雪の原の中で、人間が定着しているただ一つの地点である。もっとも今年の夏は、氷冠の南方に、フランスとスイスの探検隊がやって来ているが、その連中との連絡などは、思いもよらないことである。

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