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この物語はフィクションです。登場する人物、学校、町は、すべて作者がつくったものです。
一 三回いえるか
ひかるは、口を、ぱくぱくさせていた。
夜の校庭に、あおむけに寝ころんでいる。
空には、星が、びっしり。
その空を、すうっと、白い線が走った。
流れ星だ。
「せ、せ、せ」
ひかるは、あわてて言った。
でも、白い線は、もう消えていた。
「だめだ」
「まだ、一回目も言えてないじゃん」
隣で、なつめが、くすくす笑った。
「だって、速すぎる」
「でも、それが流れ星でしょ」
「そうだけど」
流れ星が消えるまでに、願いごとを三回言うと、かなう。
そう言われている。
でも、そんなこと、できるわけがない。
ひかるにも、わかっている。
それでも。
ひかるには、どうしても、言いたい願いごとが、あった。
「もう一回やる」
「がんばるねえ」
なつめは、毛布にくるまったまま、ころんと寝返りをうった。
「次、来たら、わたしも言う」
「なつめも、何かあるの」
「あるよ」
なつめは、空を見たまま、答えた。
「でも、教えない」
ひかるは、ちらりと、なつめの横顔を見た。
暗くて、よく見えなかった。
ふたりは、高校二年生。
天文部の、部員のすべてだ。
つまり、ふたり。
それだけ。
今夜は、秋の観察会。
顧問の先生が、校庭の鍵を開けてくれた。
先生は、少し離れた場所で、折りたたみの椅子に座って、魔法瓶のお茶を飲んでいる。
家の人にも、ちゃんと連絡して、許しをもらってある。
夜の観察会は、先生がいるときだけ。
それが、天文部の約束だった。
寒い。
十一月のはじめの夜は、思ったより、ずっと寒い。
ひかるは、毛布のすきまから、白い息をはいた。
その息の向こうに、星が、またたいていた。
二 天文部は、ふたり
天文部は、ふたりしかいない。
去年までは、三年生が、三人いた。
その人たちが卒業して、ひかるとなつめだけが、のこった。
新入生は、今年は、ひとりも入らなかった。
「部室、広すぎるよね」
放課後、なつめは、よくそう言った。
たしかに、部室は、広かった。
望遠鏡が、ひとつ。
星座早見盤が、いくつか。
壁には、古い星図が、貼ってある。
ひかるは、その部室が好きだった。
ひとりでも、ふたりでも、静かで、落ち着く。