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TORENDIA

爬虫館事件

本文約18,800字 ・ 読了時間 約38分

あらすじ(AIが作成しました)

動物園の園長である河内武太夫が忽然と姿を消し、手掛かりが乏しい中、私立探偵の帆村荘六に調査が依頼される。園内で異常な遺留品が発見され、関係者への聞き取りが進むうちに、長年秘められていた過去の戦場での出来事が浮かび上がる。帆村は複雑な人間関係や不可解な状況を紐解き、事件の真相と園長を襲った悲劇的な事実を解明していく。

海野十三

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前夜の調べ物の疲れで、もう少し寝ていたいところを起された私立探偵局の帆村荘六だった。

「お越し下すったのは、どんな方かね」

「ご婦人です」助手の須永が朗らかさを強いて隠すような調子で答えた。「しかも年齢の頃は二十歳ぐらいの方です」

(なにが、しかもだ)と帆村はパジャマの釦を一つ一つ外しながら思った。この手でも確かに目は醍る。……

「十分間お待ちねがうように申上げて呉れ」

「はッ。畏まりました」

須永はチョコレートの兵隊のように、わざと四角ばって、帆村の寝室を出ていった。

隣りの浴室の扉をあけ、クルクルと身体につけたものを一枚残らず脱ぎすてると、冷水を張った浴槽へドブンと飛び込み、しぶきをあげて水中を潜りぬけたり、手足をウンと伸したり、なんのことはない膃肭獣のような真似をすること三分、ブルブルと飛び上って強い髭をすっかり剃り落すのに四分、一分で口と顔とを洗い、あとの二分で身体を拭い失礼ならざる程度の洋服を着て、さて応接室の内扉をノックした。

応接室の函のなかには、なるほど若い婦人が入っていた。

「お待たせしました。さあどうぞ」と椅子を進めてから、「早速ご用件を承りましょう」

「はァ有難とう存じます」婦人は帆村の切り出し方の余りに早いのにちょっと狼狽の色を見せたが、思いきったという風で、黒眼がちの大きい瞳を帆村の方に向け直した。その瞳の底には言いしれぬ憂いの色が沈んでいるようであった。「ではお話を申しあげますが、実は父が、突然行方不明になってしまったんでございます――。昨日の夕刊にも出たのでございますが、あたくしの父というのは、動物園の園長をして居ります河内武太夫でございます」

「ああ、貴女が河内園長のお嬢さんのトシ子さんでいらっしゃいますか」帆村は夕刊で、憂いに沈む園長の家族として令嬢トシ子(二〇)の写真を見た記憶があった。その記事は社会面に三段抜きで「河内園長の奇怪な失踪・動物園内に遺留された帽子と上衣」といったような標題がついていたように思う。

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