人造人間エフ氏
本文約53,400字 ・ 読了時間 約107分
あらすじ(AIが作成しました)
ウラジオストクに住む科学者イワノフ博士は、長年の研究の末に、精巧な人造人間を製作する。博士の邸宅を訪れた少年正太と妹マリ子は、そこで人造犬や酒を提供する豚などの驚くべき機械仕掛けを目撃する。折しも世間では怪少年の正体が議論され、博士と彼が造った人造人間エフ氏の関与が疑われる。やがて謎の老人や潜水艦を巡る事件が浮上し、名探偵帆村は博士自身もまた人造人間であるという戦慄すべき真相に辿り着く。
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人造人間の家
このものがたりは、ソ連の有名な港町ウラジオ市にはじまる。そのウラジオの街を、山の方にのぼってゆくと、誰でもすぐ目につくだろうが、白い大きな壁と、そのうえに青くさびた丸い屋根をいただき、尖った塔が灰色の空をつきさすように聳えているりっぱな建物がある。
「ああ、じつにりっぱなお寺だなあ」
知らない人は、きっとそういうであろう。ところが、この建物は、昔はお寺であったにちがいないが、今はそうではない。では、あれは一体どういう家なのであろうか? ほかでもない。あれこそイワノフ博士の『人造人間の家』なのである。
人造人間の家――というと、なんのことか分らないかもしれないが、もっとくわしくいうとこうである。イワノフ博士は、たいへんえらい科学者である。もうすっかり頭の禿げあがった老人であるが、若い学者にもまけない研究心をもっていて、ずいぶん古くから人造人間の研究にふけっている。あの寺院のあとへ引越してきたのが、今から十年前だったが、そのときは、タンクをつぎあわせたようなたいへんな恰好の機械人形の手をひいて、あの坂道をのぼっていったので、往来の人々はみな足をとどめてびっくりしたものである。その機械人形は、歩くたびにギリギリギリと歯車の音をたて、そしてときどき石油缶のような首をふり、ポストの入口のような唇のあいだから、
「うーう、みなさん。僕はロボットです。この町へ引越してきました。どうぞよろしく」
と、ラジオのようなとほうもない大きな声で喋ったものであった。そして道々いくどもおなじことを喋りちらしながら、坂道をのぼりきって、あのお寺の跡へ姿を消した。そのとき傍についていたイワノフ博士の得意そうな顔ったらなかったそうである。それからこっちへ十年の歳月がながれた。
イワノフ博士の研究はいよいよすすみ、今では機械人形とはいわず、人造人間とよぶようになったほど、りっぱなものができるようになった。