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TORENDIA

楡の家

本文約30,900字 ・ 読了時間 約62分

あらすじ(AIが作成しました)

夫を亡くした母は、子供たちとの間に漂う重苦しい空気に悩んでいた。亡き夫が愛した浅間山麓のO村に山小屋を求め、そこで娘の菜穂子との疎遠な関係や自身の病、去来する不安を日記に綴る。ある秋の日、母は楡の木の下で発作に倒れ日記は途絶える。その後、結婚生活に悩む菜穂子は、残された日記を読み終え、母への複雑な感情を抱きながら、かつて母が座っていた楡の木の下にその手帳を埋めることを決意する。

堀辰雄

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第一部

一九二六年九月七日、O村にて  菜穂子、

私はこの日記をお前にいつか読んで貰うために書いておこうと思う。私が死んでから何年か立って、どうしたのかこの頃ちっとも私と口を利こうとはしないお前にも、もっと打ちとけて話しておけばよかったろうと思う時が来るだろう。そんな折のために、この日記を書いておいてやりたいのだ。そういう折に思いがけなくこの日記がお前の手に入るようにさせたいものだが、――そう、私はこれを書き上げたら、この山の家の中の何処か人目につかないところに隠して置いてやろう。……数年間秋深くなるまでいつも私が一人で居残っていたこの家に、お前はいつかお前の故に私の苦しんでいた姿をなつかしむために、しばらくの日を過しに来るようなことがあるかも知れぬ。その時までこの山の家が私の生きていた頃とそっくりそのままになっていてくれると好いが。……そうしてお前は私が好んでそこで本を読んだり編物をしたりしていた楡の木陰の腰掛けに私と同じように腰を下ろしたり、又、冷えびえとする夜の数時間を暖炉の前でぼんやり過したりする。そういうような日々の或る夜、お前は何気なく私の使っていた二階の部屋にはいって行って、ふとその一隅に、この日記を見つける。……若しかそんな折だったら、お前は私を自分の母としてばかりではなしに、過失もあった一個の人間として見直してくれ、私をその人間らしい過失のゆえに一層愛してくれそうな気もするのだ。

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