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TORENDIA

チロルの旅

本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

ヴェロナから始まり、トレント、ボルツァノ、メラノ、トラフォイ、インスブルクなど、チロル地方の様々な街や村を巡る旅の記録を綴る。著者である「わたし」が、各地の風景や歴史的な名所、出会った人々、宿泊先の様子などを情緒豊かに描き出す。山々の峻険さや街の乾燥した空気、人々の暮らしに触れながら、旅の途中で抱く内省的な心象風景や、かつて訪れた場所への再訪を通じた時間の経過を記述する。

岸田國士

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🎧 チロルの旅 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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ヴェロナ

なるほど、………………………………。

これがロメオとジュリエットの墓だな。大理石の棺には蓋がない。名刺がいつぱい投げ込んである。

シェイクスピイヤの胸像が黒い蔦の葉の間からのぞいてゐる。

そこで、絵はがきを売つてゐる。

トレント

こんどはダンテの立像だ。見てゐると頸が痛くなる。

オースタリイ軍に殺されたイタリイの薬剤師を憂国の志士と呼んでゐる。

――暑い。何といふ乾ききつた街だ。

ボルツァノ

昨日まではボオツン。――南部チロルの古都。

ホテルの食堂が暗い。

アルト・ボルツァノ

高原の涼気を、まづ、胸いつぱいに吸ひ込む。

××××夫人の山荘を訪れる。――だしぬけではおわかりになりますまい。この婦人は、東京で生れ、ロンドンで育ち、ウィーンとパリで教育を受け、バヴァリヤの士官に嫁ぎ、やもめとなつて、このチロルを永住の地に選んだのです。

「ほんとに、あたくし、日本が懐かしくつて……」

それで、日本の子守唄を歌ひます。花咲爺の噺をおぼえてゐます。それから……。

――おや、どうしてそんな顔をなさるのです。

メラノ

メラナアホフ、ブリストル、ベルヴュウ、サヴワ、パラス……。

――よろしい、ホテルなら、もう取つてある。

林檎はまだ小さく、葡萄はまだ硬い。

アヂヂ川をさしはさむアスファルトの遊歩道路、朝顔のやうな日傘の行列。

音楽堂の「アイーダ」はアルプス猟歩兵聯隊の示威演奏。

フランネルのズボンが大股に毛糸の頭巾を追ひかける。

「御紹介いたします、こちらは、なんとかモンチ公爵夫人、こちらは、なんとかスキイ伯爵」

ウイ……ダア……シイ……ヤア……イエス……さやう、さやう、こいつはたまらない。

トラフォイ

海抜三千五百メートル。チロル・アルプスの絶頂。

世紀は星の如く流れる。

「未来」そのものゝ如き低雲に囲まれた広漠たる大氷原に、君は、たゞ一人、立つたことがあるか。

――痛い、誰だ、豆をぶつけるのは。

インニツヘン

国境の上で草を食ふ牝牛、お前が尻尾を向けてゐる方がイタリイだらう?

返事をしないな。それでは、あのキリストの十字架像に訊かう。

シュワルツェンスタイン

ローマの古城、今は、何とか公爵の隠遁所。

金髪の少女が、乳桶を提げて出て来る。

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