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TORENDIA

遍路の正月

本文約520字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

昭和三年の伊予路、旅の途中で立ち寄った安宿にて、同宿の老遍路と過ごした正月の情景を綴る。弘法大師の掛軸や供え物で丁寧に新年の準備を整える老人の傍らで、破れた法衣以外何も持たない無一物の身として三度目の正月を迎える。孤独な旅路の最中、その老人が差し出す酒と餅、そして温情によって寒さと孤独が和らぐ様子を描き、遍路の道中でのささやかな交流と、巡礼者のつつましい新年を回想する。

種田山頭火

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🎧 遍路の正月 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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私もどうやら思い出を反芻する老いぼれになったらしい。思い出は果もなく続く。昔の旅のお正月の話の一つ。

それは確か昭和三年であったと思う。私はとぼとぼ伊予路を歩いていた。予定らしい予定のない旅のやすけさで、師走の街を通りぬけて場末の安宿に頭陀袋をおろした。同宿は老遍路さん、可なりの年配だけれどがっちりした体躯の持主だった。彼は滞在客らしく宿の人々とも親しみ深く振舞うていた。そしてすっかりお正月の仕度――いかにも遍路らしい飾りつけ――が出来ていた。正面には弘法大師の掛軸、その前にお納経の帳面、御燈明、線香、念珠、すべてが型の通りであったが、驚いたことには、右に大形の五十銭銀貨が十枚ばかり並べてあり、左に護摩水の一升罎が置いてあった!

私は一隅に陣取ったが(安宿では一隅の自由しか許されない)、さて、飾るべき何物も持っていない。ただ破れ法衣を掛け網代笠をさげ杖を立て頭陀袋を置いて、その前に坐ってぼんやりしているより外はなかった。

そこで私は旅の三回目の新年を迎えた。ありがたくも私の孤寒はその老遍路さんの酒と餅と温情とによって慰められ寛ろげられた。

生々死々去々来々、南無大師遍照金剛々々々々々々々々。

(「愚を守る」初版本 昭和十六年八月刊)

完

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