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TORENDIA

一少女

本文約4,700字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

北満洲の吉林を訪れた語り手と同行者は、ロシア革命後の混乱から逃れ、松花江沿いで極貧の避難生活を送る亡命者たちの姿を目の当たりにする。かつては身分のある者たちも、現在はバラツク暮らしを強いられ、凍死や飢えに苦しむ惨状が続く。語り手はその荒廃した環境の奥で、過酷な状況を感じさせない気品と輝きを放つ少女スザナに出会う。絶望的な境遇の中に浮かび上がるマドンナのようなその美しさは、語り手の記憶に強く刻み込まれる。

田山録弥

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🎧 一少女 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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一

私達が北満洲に行つた時の話ですが、あのセミヨノフ将軍の没落した後のロシアの避難民のさまは悲惨を極めたものだつたさうです。何でもハルビンも危険だといふので、手に手を取つて松花江の氷の上をわたつて、陸続として長春から吉林の方へ入つて来たのださうですが、それは惨めなものだつたさうです。私達は国境近いところから、何処の町に行つても大きな包を負つて跣足で歩いてゐるロシア人を多く見ました。かれ等の中には、支那の苦力に交つて労働してゐるものもあれば、杜の中に乞食でも住むやうなバラツクをつくつて、そこで日向ぼつこなどをしてゐる光景を私達はよく路傍で見かけました。それでもその時分はもう初夏に近い頃でした。何と言つても暖かい日影はあたりに漲つてゐました。野にはアカシヤの白い花が咲き、杜には緑の濃い絵具をまき散してゐました。蕨なども生えてゐました。従つてさういふ人達も、私達には決して悲惨とばかりは見えませんでした。自然の中に更に小さく展げられた絵か何ぞのやうにさへ見えたほどでした。

二

私達を乗せて吉林のあちこちを見物させて呉れた馬車の馭者をしてゐた男も、その避難民の一人で、何でもセミヨノフ将軍づきの騎兵大尉だつたといふことでしたと公署の役人の一人は言ひました。

『だから、先生、馬を取扱ふことは名人です……、何と言つてもコザツクの馬を平生取扱つてゐましたから……。さうです、先生達困つてゐるんです。公署で、食はせて十八円でつかつてゐるんですから……』

『十八円!』

私達はその金の額に由つても、いかにさういふロシア人達の困つてゐるかゞわかるやうな気がしました。吉林では私はことにさういふ多くの人を見ました。ツルゲネフの小説の中にでも出て来るやうな人達。髪を箒のやうにして、破れた帽子一つ被らずに、ぼろ/\になつた服を着て歩いてゐる背の高い人達。大きな包を負つてやつと歩けるくらゐな子供を伴れてゐる女達。ハルビンでは、いくら避難民でもまだ身装を崩さないものをも沢山見かけたのに、此処では、さういふ人達は捜しても見つからないほどでした。

『あれで、あゝいふ人達も、皆な身分のあるやうな人なんですから……』

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