道中記
本文約13,300字 ・ 読了時間 約27分
あらすじ(AIが作成しました)
各地を徒歩で巡る俳人が、行く先々で出会う人々との交流や、酒を飲み句を詠む日々を記録した旅日記。春の訪れとともに八幡を出発した筆者は、関門海峡を渡り、門司、若松、直方、中津、日田など九州各地を歩く。道中で友人知人を訪ねて酒や食事の厚意を受け、病床の友を見舞い、時に自然の景観に心を動かされる。日々の生活や旅の苦楽、そして生死の狭間で迷いながらも、句を詠み続ける放浪の生活を綴る。
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三月十二日 晴、春寒、笹鳴、そして出立――八幡。
昨夜は夜通し眠れなかつた、出立前に、アメリカ同人の贈物ポピーを播いてをく!
今朝の誓願、今後は焼酎を飲むまいぞ、総じて火酒は私に向かない、火酒を飲んでロクな事があつたタメシがない、火酒は地獄の使だ!
やつとこさで、九時の汽車に乗れた、やれ/\、今日の新聞は車内で読ませて貰つた。
十一時、関門海峡を渡る。――
急いで、日本銀行支店の岔水君を訪ふ、岔水君は若い江戸ッ児のよさだけを私にあらはしてくれる、ありがたいことである。
黎々火君は出張不在、軽い失望、帰途の希望がある。
――一杯また一杯、安い酒、酔はない酒、淋しい酒!
門司駅の待合室で岔水君を待つ、四時、同道して小倉まで。
大朝支社参観、深切に案内して下さつた、近代風景を断片的に鑑賞することが出来た、或るおでんやで飲んで話して、別れた。
電車で、ほろよひ気分で、暮れ方の鏡子居へとびこむ、客来で、私一人で御馳走になる、さすがにをなごやだけあつて賑やかだ、時々主人公と世間話をしながら、腹いつぱい飲んで食べた、早々ほろ/\になつてぐつたりと寝た、感謝々々。
好い日であつたが、やつぱり私のその日その日は覚めきらない悪夢の断片といはなければなるない。
・朝のひかりへ播いてをいて旅立つ(アメリカポピー会同人に)
・食べるもの食べつくしたる旅に出る(自分自身に!)
再録
・春風のどこでも死ねるからだであるく(これも自嘲の一句)
述懐、冬去春来
・かつえずこごえず冬もほぐれた(別)
・戦ひはこれからの大地芽吹きだした
・野中の一本いちはやく芽吹いてゐる
梅はさかりの、軍需工業のけむり
・たちまち曇り、すぐ晴れて海峡の鴎
門司駅待合室所見
・仲よく読んでゐるよこからいやな顔がのぞいて
――綿織物よりも絹織物を! これも非常時の国産奨励。
改作追加一句、峠にて或る日のルンペンと共に
・草の上におべんたう分けて食べて右左
三月十三日 曇、時雨、若松。
朝早く起きてはならないので困つた(夜ふかしの朝寝があたりまへの社会だから)、こつそり抜けだして散歩、時局柄で朝湯もないので、コツプ酒でも呷る外ない、……不用人間の不用時間を持て余した。……