其中日記
本文約9,800字 ・ 読了時間 約20分
あらすじ(AIが作成しました)
各地を放浪する俳人が、一九三九年の初頭から春先にかけての日々の営みを綴る日記。旅先で静かに読書や思索にふける一方で、知人らと酒を酌み交わし、時にどんちゃん騒ぎを繰り広げる姿を描く。困窮する生活の中でも、自然や四季の移ろいに心を寄せ、他者との交流の愉しみと煩わしさ、そして自身の醜さや弱さと向き合う内面を率直に記す。次第に人間関係への疲弊を感じ、新たな旅立ちへの切望を抱きながら日々を過ごす様子を収める。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一月一日 曇――雨。
聖戦第三年、興亜新春、万歳万々歳。
安眠、朝寝、身心平静。
おめでたう、ありがたう。
――起きるなり、水を汲みあげて腹いつぱい飲んだ、それは若水であり、そして酔醒の水であつた。
朝湯、香をいて自戒自粛、――回顧五十年、疚しくない生活、悔のない生活、あたりまへの生活、すなほにつゝましく生活したい。
朝酒、かたじけなし、酒を楽しみ味ふ境涯であれ。
雑煮のうまさ、酒がうまいやうに。
十時、私も祈願祝祷。
雨、あるいは雪になるらしい、雨もよし、雪もよし、たうとう雨になつた、しめやかな雨である。
転一歩――新一歩。
戦地のS君Y君へ賀状を書く、まことに千里同風の感がある。
風邪をひいたらしい、宵から炬燵にもぐつて読書。
門外不出、黙然独坐の一日であつた。
不眠、酔つぱらひが通る、さすがにお正月らしく。
Nさんに――
……生きてゐることは時々つらいとは思ひますけれど、やつぱり生きられるだけは生きて、酒を飲んだり句を作つたりする外ありません、……それが私の宿業であります。……
一月二日 快晴。
朝湯、おだやかなこゝろ、なごやかな日ざし。
一の香を焚いて反省する。
子供は羽子つく、隣家から喧嘩の声。
飯のうまさも、そして餅のうまさも、そしてまた酒のうまさも。――
まことにしんじつ文なし正月煙草もなくなり、餅もなくなり、湯札もなくなり、醤油もなくなり……(銭なんか無いことはいふまでもない!)
――あるがまゝに――与へられるまゝに――生かされるまゝに。――
午後、N君来訪、私としては今年最初の会談をする。
招待されて徃訪、来客十人あまり、知つた顔、聞いてゐる顔ばかり、ほどよく飲食して帰宅、めでたし。
人にまじはることは愉快でもあり不愉快でもあり、私のやうな我儘者は長く続けて人間の中に居ることは堪へがたく感じる。……
N君の宅で、ことし初めての数の子を食べた、おいしい数の子であつた。
今日もまた、自分の卑しさ醜さを見せつけられた、やりきれない気持だつた。……
今夜も不眠、おちつけ/\。
・老来。
・かなしみもなく、また、よろこびもなく。