正二くんの時計
本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
時計を欲しがる少年・正二は、父から中学入学まで待つよう諭される。待ちきれない正二は、家にある古くて大きな銀時計を持ち出すが、その姿を恥じてしまう。姉から買ってもらった新型の腕時計はすぐに止まってしまい、見かけだけの精巧さに失望する。先生から実用性の重要さを教えられた正二は、機械の確かな銀時計を下げて登校するようになる。戦争下の世相を背景に、物や人の本質的な価値を問う物語。
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正二くんは時計がほしかったので、これまでいくたびもお父さんや、お母さんに、買ってくださいと頼んだけれども、そのたびに、
「中学へ上がるときに買ってあげます。いまのうちはいりません。」というご返事でした。
戦争がはじまってから、時計は、もう外国からこなくなれば、国内でも造らなくなったという話を聞くと、正二くんは、
「売っているうちに、早く買ってもらいたいものだ。」と思ったのです。それで、お父さんに向かって、またお頼みしたのでした。すると、
「なくなることはない。高くなっても、お前が中学へ上がるときには買ってやるから、心配しなくていい。」と、お父さんは、いわれたのでした。
学校では、小谷も、安田も、森も、みんな時計を持っていました。いままで持っていなかった高橋も、このごろ買ってもらったといっていました。正二くんは、みんなが上着のそでをちょっとまくって時計を見るときのようすが、目についていてうらやましくなりました。時計があると徒競走をしても、タイムが取れるし、学校へいくバスの中でも時計があれば、安心できると思ったのです。正二くんは、いつか兄さんがいい時計を買いたいといっていたことを思い出して、兄さんのところへいきました。
「兄さん、いつ時計を買うの。」
「まだわからない。」
「買ったら、兄さんの時計を僕におくれよ。」といいました。
「ああ、やるけれど、一年先だか、二年先だかわからないぞ。」
「えっ、一年も、二年も……。」
正二くんは、目を大きくみはったのです。
「うちに、お父さんの前に持っていた、大きな時計があったろう。あれをもらうさ。」と、兄さんがいいました。
それは、大型の、ひもで下げる昔ふうのものでした。商店か、古道具屋の店頭でもなければ、見られぬものです。
「やだ、あんな昔のものなんか。」と、さすがに正二くんも、おかしくなって、笑いました。
「ばか、あれは、機械がいいのだ。この時計なんかとくらべものにならぬほど正確なんだ。」と、兄さんは、自分の時計をながめました。
「じゃ、兄さん、あれをおもらいよ。」
「あんなの下げて歩けるか。」
これを聞くと、正二くんは、お父さんのもとへ飛んでいきました。