山に雪光る
本文約1,900字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
筆屋を営む老人が作る筆を愛用する少年武男は、老人が語る山や筆草の伝説に心惹かれる。秋の薬売りが語る険しい山々の話に想像を膨らませた武男は、日々遠くの山を眺めて過ごす。冬になり、雪が頂を光らせる山を見つめた少年は、書き初めに「山に雪光る」としたため、その字は周囲の人々や筆屋の老人に高く評価される。筆作りを通じて触れる職人の技と自然への憧れが、少年の感性を育む様子を描く。
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いろいろの店にまじって、一けんの筆屋がありました。おじいさんが、店先にすわって太い筆や、細い筆をつくっていました。でき上がった筆は、他へおろしうりにうるのもあれば、また自分の店において、お客へうるのもありました。昔とちがい、このごろは、鉛筆や万年筆をつかうことが多く、筆をつかうことはすくなかったのです。しかし、大きな字を書いたり、お習字をしたりするときは、筆をつかうのでした。
武男は、よくおじいさんのところへ遊びにきて、お仕事をなさるそばで、おじいさんから、お話をきくのを楽しみとしました。
「おじいさん、あの字は、だれが書いたの。」と、頭の上にかかっている額をさしました。
「ああ、あれはここへみえる、書家の方が、お書きなされたのだ。」
「うまく、書けているの。」
「みなさんが、おほめなさる。山高水長、やまたかく、みずながし、といってもよい。」
「おじいさんに、書いてくださったの。」
「そうだ、ここにある、この筆で、お書きになったのだ。私のつくった筆が、たいそう書きよいと喜ばれてな、一枚くださったのだよ。」
おじいさんは、箱の中から、一本太い筆をとりだして、いいました。それは、白い毛の筆でありました。
「ぼく、お習字のとき、つかう筆とよくにているな。」と、武男は、目をまるくしました。
「武坊のもよい筆だが、これとはちがっている。」と、おじいさんは、笑われました。
「ぼくのも白いね。この筆の毛は、やはり羊でない。」
「そう、羊の毛だ。」
武男は、筆をつかったあとで、かなだらいに、水をいれて洗うと、もくもくと、ちょうど汽車の煙のように、まっ黒い墨を、筆からはき出します。そして、そのあとの毛は、清らかな水をふくんで、美しい緑色に見えるのでした。
「おじいさん、どの毛でつくった筆が、いちばんよいのですか。」と、武男は、ききました。
「いちがいにいえぬが、細筆などは、たぬきの毛だろうな。」
「どうやって、たぬきをつかまえるの。」
「たぬきか。おとしや、わなでつかまえたり、また、子飼いにして育てたりするのだ。」
「山へいけば、たくさん、獣物がすんでいるのだね。」と、武男は、いいました。