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TORENDIA

夜店ばなし

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

二十年前の浅草広小路を舞台に、夕暮れ時から深夜にかけて活気づく屋台の様子を綴る。鮨や天麩羅、おでんといった往年の店と、時代の変遷と共に現れた支那蕎麦や焼き鳥などの店を対比し、夜更けの屋台が象徴する東京の飾らない姿を描き出す。また、金魚屋や虫屋、燈籠屋などの出店を通して季節の移ろいを感じさせ、夏の夜の情緒や、夜店に宿る浮草のような果敢ない営みを情緒豊かに語る。

久保田万太郎

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🎧 夜店ばなし / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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……大風呂横町と源水横町との間の、不思議とその一つにだけ名のなかつた横町の角に荷を下ろした飴屋のちやんぎり。……そのちやんぎりの一トしきりの音の止んだとき、両側の、どこの屋根の上にも、看板のかげにも、勿論広い往来のどこの部分にも、そのときすでに日のいろは消えてゐた。そして両側の、茂り交した柳の木末に早くも、「夕暮」は下りた。……といふことは、蝙蝠がとんで、水のやうに澄んだ空に早くも星の瞬きが生れた。

そのときである。すしやの屋台、天麩羅やの屋台、おでんやの屋台。……夜店へ出るそれ/″\の屋台が誓願寺の地中から一トしきりそこにつゞいた。……たとへば泊りへいそぐそれ/″\の船のやうに……

が、そのくせ、どこにもまだ燈火のかげはさしてゐない。

――あさアり……からアさり……

で、どこからともなく聞えて来る夕とゞろきのなかのその美音……

――大丈夫だ、この塩梅なら……

――もつよ、まだ、この天気は……

屋台のぬしは、それ/″\の車を押しながら、をり/\さうしたことを言葉ずくなにいひ合つた。

蝙蝠。……夕あかり。……星。……そして夜店……

電車の行交ひもいまのやうに激しくなかつた。人通りも、また、いまのやうに目まぐるしくなかつた。そのまゝ白くその一日はしづんだ。……といふものが浅草の広小路。……二十年まへの、わたしの育つたころの浅草の広小路。……どこのうちでもまだ瓦斯をつけてゐたそのころのけしきの一部である。

その懐しいおもひでの、さうした屋台のぬしのなかゝら、何間々口かの、大ぜいの奉公人をつかひ、いまを時めく公園界隈でのすしやに経上つたものもあれば、いまなほ屋台の、色の褪めたのれんの中に、一人さびしく、むかしながらの長い箸をもちつゞけてゐる天麩羅やもある。……わからないのは人の運の、星をやどした夕ぞらを仰ぐにつけ、浅草に蝙蝠がとばなくなつてもう何年になるだらう?……いつもわたしはさう思ふのである。

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