麦藁帽子
本文約15,400字 ・ 読了時間 約31分
あらすじ(AIが作成しました)
都会育ちの少年は、田舎へ行って少女を見つけてくるという休暇の宿題を果たすため、幼馴染の少女とその家族が滞在するT村の海岸へ向かう。スポーツを通して少女の家族の様式を学んだ少年は、一夏を彼らと共に過ごす。ある日突然の震災に見舞われ、避難先で少女と一夜を共にした少年は、翌朝彼女たちが去る姿を村はずれから見送る。成長の過程で揺れ動く少年の内面と、夏の記憶を鮮やかに描き出した物語である。
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私は十五だった。そしてお前は十三だった。
私はお前の兄たちと、苜宿の白い花の密生した原っぱで、ベエスボオルの練習をしていた。お前は、その小さな弟と一しょに、遠くの方で、私たちの練習を見ていた。その白い花を摘んでは、それで花環をつくりながら。飛球があがる。私は一所懸命に走る。球がグロオブに触る。足が滑る。私の体がもんどり打って、原っぱから、田圃の中へ墜落する。私はどぶ鼠になる。
私は近所の農家の井戸端に連れられて行く。私はそこで素っ裸かになる。お前の名が呼ばれる。お前は両手で大事そうに花環をささげながら、駈けつけてくる。素っ裸かになることは、何んと物の見方を一変させるのだ! いままで小娘だとばかり思っていたお前が、突然、一人前の娘となって私の眼の前にあらわれる。素っ裸かの私は、急にまごまごして、やっと私のグロオブで私の性をかくしている。
其処に、羞しそうな私とお前を、二人だけ残して、みんなはまたボオルの練習をしに行ってしまう。そして、私のためにお前が泥だらけになったズボンを洗濯してくれている間、私はてれかくしに、わざと道化けて、お前のために持ってやっている花環を、私の帽子の代りに、かぶって見せたりする。そして、まるで古代の彫刻のように、そこに不動の姿勢で、私は突っ立っている。顔を真っ赤にして……
夏休みが来た。
寄宿舎から、その春、入寮したばかりの若い生徒たちは、一群れの熊蜂のように、うなりながら、巣離れていった。めいめいの野薔薇を目ざして……
しかし、私はどうしよう! 私には私の田舎がない。私の生れた家は都会のまん中にあったから。おまけに私は一人息子で、弱虫だった。それで、まだ両親の許をはなれて、ひとりで旅行をするなんていう芸当も出来ない。だが、今度は、いままでとは事情がすこし違って、ひとつ上の学校に入ったので、この夏休みには、こんな休暇の宿題があったのだ。田舎へ行って一人の少女を見つけてくること。