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TORENDIA

夜長ノート

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

小春日和の山でうららかな秋の風景を眺める著者の心象風景から始まり、傍らに眠る老祖母や猫との静かな日常の断片を描く。さらに、日常の些細な瞬間への鋭い感覚や、一度きりの体験に固執する独特の生のあり方を綴る。後半では、同時代の文学雑誌や文学者たちの傾向を論じ、自身の俳句に対する考え方や理想を吐露する。思索と日常の観察が入り混じる、著者の内面世界を収めた随筆である。

種田山頭火

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🎧 夜長ノート / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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小春日和のうららかさ。のんびりとした気持になって山の色彩を眺める。赤い葉、黄色い葉、青い葉、薄黒い葉――紅黄青褐とりどりのうつくしさ。自然が秋に与えた傑作をしみじみ味わうたのしさ。いつしか、うっとりとして夢みごころになる。自然の無関心な心、秋の透徹した気、午後三時頃の温かい光線が衰弱した神経の端々まで沁みわたって、最う社会もない、家庭もない――自分自身さえもなくなろうとする。

けたたましい百舌鳥の声にふっと四方の平静が破れる。うつくしい夢幻境が消えて、いかめしい現実境が来る、見ると、傍に老祖母がうとうとと睡っている。青黒い顔色、白茶けた頭髪、窪んだ眼、少し開いた口、細堅い手足――枯木のような骨を石塊のような肉で包んだ、古びた、自然の断片――ああ、それは私を最も愛してくれる、そして私の最も愛する老祖母ではないか。

老祖母の膝にもたれて『白』と呼び慣れている純白な猫が睡っている。よほどよく睡っていると見えて、手も足も投げ出して長くなれるだけ長くなっている。かすかな鼾の声さえ聞える。

その猫の尻尾に所謂『秋蠅』が一匹とまっている。じっとして動かない。翅の色も脚の色もどす黒く陰気くさい。衰残の気色がありありと見える。

秋の田園を背景として、蠅と猫と老祖母と、そして私とより成るこの活ける一幅の絵画。進化論の最も適切なる、この一場の実物教授。境遇と自覚。本能と苦痛。生存と滅亡。

自覚は求めざるをえない賜である。探さざるをえない至宝である。同時に避くべからざる苦痛である。

殊に私のような弱者に於て。

○

新刊書を買うて帰るときの感じ、恋人の足音を聞きながら、その姿を待つときの感じ、新鮮な果実に鋭利なナイフをあてたときの感じ。……

その日の新聞を開いたときの匂い、初めて見る若い女性に遇うたときの匂い、吸物碗の蓋をとったときの匂い、埃及煙草の口を切ったときの匂い、親友から来た手紙の封を破ったときの匂い。……

穏かな興奮と軽い好奇心と浅い慾望と。……

○

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