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TORENDIA

葛飾砂子

本文約18,400字 ・ 読了時間 約37分

あらすじ(AIが作成しました)

十六歳の菊枝は、病床の俳優を看病した看護婦のお縫の家に身を寄せている。秋の夜、縁日の帰りに立ち寄ったその家で、菊枝は身の上や将来に思いを巡らせる。かつて橘之助という俳優を看取った経験を持つお縫は、菊枝に休息と慎重な思案を促しつつ、周囲の危険や誘惑から彼女を守ろうとする。かつて蓬莱橋から浴衣を流して俳優を供養した菊枝は、お縫と共にこの地で時を過ごしながら、自身の進むべき道を静かに見つめ直す。

泉鏡花

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縁日  柳行李  橋ぞろえ  題目船  衣の雫  浅緑

記念ながら

[#改ページ]

縁日

一

先年尾上家の養子で橘之助といった名題俳優が、年紀二十有五に満たず、肺を煩い、余り胸が痛いから白菊の露が飲みたいという意味の辞世の句を残して儚うなり、贔屓の人々は謂うまでもなく、見巧者をはじめ、芸人の仲間にも、あわれ梨園の眺め唯一の、白百合一つ萎んだりと、声を上げて惜しみ悼まれたほどのことである。

深川富岡門前に待乳屋と謂って三味線屋があり、その一人娘で菊枝という十六になるのが、秋も末方の日が暮れてから、つい近所の不動の縁日に詣るといって出たのが、十時半過ぎ、かれこれ十一時に近く、戸外の人通もまばらになって、まだ帰って来なかった。

別に案ずるまでもない、同町の軒並び二町ばかり洲崎の方へ寄った角に、浅草紙、束藁、懐炉灰、蚊遣香などの荒物、烟草も封印なしの一銭五厘二銭玉、ぱいれっと、ひーろーぐらいな処を商う店がある、真中が抜裏の路地になって合角に格子戸造の仕舞家が一軒。

江崎とみ、と女名前、何でも持って来いという意気造だけれども、この門札は、さる類の者の看板ではない、とみというのは方違いの北の廓、京町とやらのさる楼に、博多の男帯を後から廻して、前で挟んで、ちょこなんと坐って抜衣紋で、客の懐中を上目で見るいわゆる新造なるもので。

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