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TORENDIA

百合子

本文約4,500字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

雪解けの道を寺の墓地へ向かう百合子は、かつて誰にも明かせぬ秘めた恋をした相手の墓の前で泣き明かす。突然の死という悲しみの中で、彼女は自身の心に芽生える新たな感情や周囲の変化に戸惑いながらも、次第にそれらを受け入れていく。やがて結納を控え、結婚の日取りが決まった翌日、彼女はかつての恋の区切りをつけるように再び墓を訪れる。寺を去り、明るい午後の日差しが照らす道を歩む百合子は、知人と出会い、自身の新しい門出について言葉を交わす。

田山録弥

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🎧 百合子 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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一

百合子は雪解のあとのわるい路を拾ひながら、徐かに墓地から寺の門の方へと出て来た。

もしそこに誰かゞゐたならば、若い娘の低頭き勝に歩を運んでゐるのを見たばかりではなく、思ふさま泣いて泣いて泣腫らした眼と、いくらか腫れぼつたくなつてゐる眼頭と、乱れ勝になつてゐる髪とを見たであらう。また大きな牡丹の模様の出た腹合せの帯に午後の日影の線をなしてさしてゐるのを見たであらう。そしてどこの娘だらう? ここ等にはあまり見かけない娘だがと首を捻つたであらう。かの女がここに来たのは、今から一時間も前であるが、その時にも線香に火をつけてやりながら寺の上さんは、野上さんの墓をお詣りに来たにしてはどこの娘かしら? あんな娘が親類にあるといふ事は聞いたことがないのに――かう言つて不思議さうにじつとその後姿を見送つた。

その野上の墓といふのは、墓地の入口から、秋は木槿などの紅く白く咲く傍を通つて、ずつと奥深く進んで行つたところにあるのであるが――周囲を花崗石の塀で囲まれて、大きなまたは古く苔蒸した石塔が五つも六つも並んで立つてゐるのが外からも見えるやうになつてゐるのであるが、その新しいひとつの墓の前に手を合せて、今は人目も憚らないといふやうにして、彼女は泣いて泣いて泣き尽したのであつた。しかし幸にもこの残雪の泥濘の路を墓参にやつてくるものもなく、あたりはしんとして、唯欷歔の声のみが何物にもさまたげられずに微かに野に近い空気に雑り合つた。

どこか遠くで汽車の通る音がした。野には春を知らせた静けさが漲りわたつて、野蒜、なづ菜、芹などが、榛の林の縁を縫ふやうに添つて流れてゐる小川の岸を青く彩つた。

二

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