本文へ移動
TORENDIA

尋常一様

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

料理の根本義を問う客に対し、北大路魯山人は「食うために作ることだ」と答え、あたりまえのことこそが真実であると説く。高価で複雑な料理を追い求め、本質を見失いがちな現代人へ向け、著者は自らの食に対する思想を綴る。本書は、料理を単なる技術としてではなく、生活のあり方として捉え直すための入り口であり、読者に対し、先入観を捨てて自らの五感で味わい、自身の頭で考えることの重要性を説く随筆である。

北大路魯山人

速度
🎧 尋常一様 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

ある日、友人の紹介で人が来た。客は、わたしをつかまえてさっそく質問を発した。

「先生、料理の根本義についておきかせください」

そこで、わたしは言下に答えた。

「食うために作ることだ」

客は物足りぬ顔をしながらまたきいた。

「食うために作ることですか、先生。そんなら、なんのために食うのですか」

「そりゃ生きるためにだ」

「なんのために生きるのですか」

「死ぬためにだ」

「まるで先生、禅問答のようですね」

わたしは笑いながらいった。

「君がむずかしいことを聞くからだ。料理の根本義について……なんぞいい出すからだよ。もっと、あたりまえの言葉できけばいいではないか。むずかしい言葉を使わぬと、本当のことや、立派なことがきけないと思うているとみえるね」

客はあわてていった。

「いえ、決して……。では、あたりまえの言葉で伺ったら、先生は本当のことを教えてくださいますか」

「うむ、あたりまえの言葉で聞いたら、あたりまえのことをいってやるよ」

客は、ここでもまたあわてていった。

「あたりまえのことなら、伺いたくないのです。先生、本当のことをききたいのです」

「あたりまえのことが、一番本当のことだよ。君は、本当のものを見ないから見まちがうのだ。耳は、本当のことをききたがらない。舌は本当の味を一つも知らないから、ごまかされるのだ。手は、あたりまえのことをしないから、庖丁で怪我をするのだ」

「分ったようで、分りません」

「そうだ、なかなか、あたりまえのことは分りにくいものだ。いや、分ろうとしないのだよ。ハハハ……。いろいろききたければ、わたしが、近々本を出すから、それを読んでくれるといい。それには、あたりまえのことしか書いてないが、多分、君の聞きたいことがみんな書いてあると思うよ」

「そうですか、ぜひ、読ませていただきます」

客は帰りぎわに、なにか書いてくれといった。玄関へかけるのだという。そこでわたしは、さっそく客のいう通りに、色紙をとりあげ、筆をもった。

「玄関へかけるのですから」

客は、念を押して頼んだ。

そこでわたしは「玄関」と書いて渡した。

「先生、玄関と書いてくださったのですか」

「そうだ」

北大路魯山人の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本