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TORENDIA

帆の世界

本文約14,200字 ・ 読了時間 約29分

あらすじ(AIが作成しました)

女の裸体に異常なまでの執着と美意識を抱く青年は、偶然の機会に他人の入浴などの私的な光景を覗き見るという密かな悦楽に浸っていた。ある時、彼は他家の庭に侵入し、ある婦人の裸体を目撃したことから警察の呼び出しを受ける事態に陥る。彼が自らの倒錯的な衝動とそれに伴う秘境的体験を内省する中、彼に密かな好意と嫉妬を抱く女中・満子との関係や、捜査の影が不穏に交錯していく様を描く。

室生犀星

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私は女の裸體といふものをつねに怖れた。これは私のまはりに何時も不意に現はれては、わづかな時間のあひだに或ひは消え、そして見えなくなつた。その後で私はその怖れと驚きについて、詳しくどこがこのやうに私といふ人間を次第にこしらへ直すかをしらべた。その一個の裸體をどこかで見ると私はきつとまた別のはだかが見たい希みが起り、別のはだかを見るとその數を算へて見て私のまはりが大きく展がつてゐることを知つた。私は物識りになつたかはりに裸を見たといふことが人に話されないことであるから、頭の中にそれらが一杯にたまつてゐてどうにもならない状態になつてゐた。私はくはしく何處が一等美しいといふものを作り上げてゐるのか、その急所はどこにあるのかは考へても、もうろうとして能く判らない、臍や乳房といふ小さい場所ではなく、突きこんで言ふと體躯のきれめが空氣とのきれめになつてゐるところ、胸とか大腿部とかが形をなくして溶けたところに、美があるやうな氣がした。線とか線の續きのやうな粗末な現はれには、私の眼はとまらなかつた。そこから、すぐ、きれめの深さが空氣の透明なあひだにたつぷりと、もたれかかつてゐるところに、一さいの美があるやうな氣がした。重量の綾みたいなものだ、永遠にとどまることのない物の假睡のやうなものだ。

私は次から起る變動のある物體が、しだいに選ばれてくる視覺のすすみ方をも知つたが、それよりもつと先きに見たものが早くも滅びるといふことを知つたのは意外であつた。決して先きの日に見たものが其儘にとどまつてゐることが、なかつた。あたらしく起つたものと入れ代はり、きのふの現像だけが、次へ起るもののために、その日まで存在するだけの呆氣なさであつた。それは後に見た物がきつと前の物より美しい傾きがあるからである。

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