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TORENDIA

書簡 大杉栄宛

本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

千葉県御宿の旅館に滞在する書き手が、遠く離れた大杉栄に宛てた手紙を綴る。あらしの去った静かな夜、孤独と憂鬱の中で恋い慕う相手への募る思いを告白する。世間を騒がせる二人の関係や自身の過去の生き方を振り返りつつ、相手への深い敬慕と依存、そして再会への期待を率直な言葉で記す。

伊藤野枝

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🎧 書簡 大杉栄宛 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館

昨日のあらしがひどかつたので、別荘の掃除が大変だと云つて、おひるから婆やがひまを貰ひたいと云ひだしましたので、今日は午後からお守りをして暮しました。それでも午前に十枚ばかり書きました。夕方、子供を寝かしてからぼんやりしてゐますと、急に淋しさがこみ上げて来てゐても立つてもゐられないやうになりました。

今日の夕方は、此処へ来てからはじめての静かな夕方でした。風がちつともなくて、ひつそりしてゐましたので、妙に憂鬱になつて仕方がありませんので、夜になると支店のおかみさんを呼んで、女中たちと一緒にお酒を飲んで騒いで見ましたけれど、少しも酔はないで、だん/\気がめいつて、自分ながらどうする事も出来ないのです。今もう一時近くですが、頭が妙にさえて眠れないので、少し書かうと思ひましたけれど、あなたの事ばかりが思はれて仕方がないのです。今頃はいい気持に眠つてゐらつしやるでせうね。私がかうやつてあなたの事を思つてゐるのも知らないで。憎くらしい人!

今朝の手紙、いやな事ばかり書いてすみませんでしたのね。気を悪くなさりはしませんか。余計な、書かなくてもいい事を書いて仕舞つて、何んとも申訳けがございません。何卒おゆるし下さいまし。(八日夜)

今日は一緒に勝浦へ行つた日を懐はせるやうないいお天気です。昨夜あんまりさえたせいか、今朝はぼんやりした頭で何にも出来さうにありません。これから少し山の方へでも歩きに行かうかと思つてゐます。

私達のことが福岡日日新聞へも九州日報へも出たさうですよ。板場の話しでは都にも出たさうです。大ぶ騒がれますね。何んだか、何を聞いてももう痛くも痒くもありませんね。隅から隅まで知れた方がよござんすね、面白くつて。

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