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TORENDIA

『鉢の子』から『其中庵』まで

本文約4,500字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

行乞流転の旅を続けていた種田山頭火は、恩人たちの助けによって自身の句集を出版し、庵居の地を模索する。各地を巡りながら川棚での居住に一度は心血を注ぐが、縁に導かれ、最終的に故郷に近い山裾の廃屋を「其中庵」と定め、そこでの静寂な暮らしを受け入れるまでを綴る。自然と友人の温情に支えられ、孤独や哀しみを抱えながらも、草庵の主として「行雲流水」の生活を慈しむ姿を描いている。

種田山頭火

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🎧 『鉢の子』から『其中庵』まで / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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この一篇は、たいへんおそくなりましたけれど、結庵報告書ともいうべきものであります。井師をはじめ、北朗兄、緑平兄、酒壺洞兄、元寛兄、白船兄、樹明兄、そのほか同人諸兄姉の温情によって、句集が出版され、草庵が造作されました。おかげで私は山村庵居の宿題を果すことが出来て、朝々、山のしずけさ人のあたたかさを満喫しております。ここに改めてお礼とお詑とを申し上げる次第であります。

一昨年――昭和五年の秋もおわりに近い或る日であった。私は当もないそして果てもない旅のつかれを抱いて、緑平居への坂をのぼっていった。そこにはいつものように桜の老樹がしんかんと並び立っていた。

枝をさしのべてゐる冬木

さしのべている緑平老の手であった。私はその手を握って、道友のあたたかさをしみじみと心の底まで味わった。

私は労れていた。死なないから、というよりも死ねないから生きているだけの活力しか持っていなかった。あれほど歩くことそのことを楽しんでいた私だったが、

『歩くのが嫌になった』

と呟かずにはいられない私となっていた。それほど私の身は労れていたのである。

『あんたがほんとに落ちつくつもりなら』緑平老の言葉はあたたかすぎるほどあたたかだった。

こうして其中庵の第一石は置かれたけれど、じっとしていられる身ではない。私はひとまず熊本へ帰ることにした(実をいえば、私には行く方向はあっても帰る場所はないのである)。

冬雨の降る夕であった。私はさんざん濡れて歩いていた。川が一すじ私といっしょに流れていた。ぽとり、そしてまたぽとり、私は冷たい頬を撫でた。笠が漏りだしたのだ。

笠も漏りだしたか

この網代笠は旅に出てから三度目のそれである。雨も風も雪も、そして或る夜は霜もふせいでくれた。世の人のあざけりからも隠してくれた。自棄の危険をも守ってくれた。――その笠が漏りだしたのである。――私はしばらく土手の枯草にたたずんで、涸れてゆく水に見入った。

あなたこなたと歩きつづけて、熊本に着いたのはもう年の暮だった。街は師走の賑やかさであったが、私の寝床はどこにも見出せなかった。

霜夜の寝床が見つからない

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