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TORENDIA

空とぶトランク

本文約7,300字 ・ 読了時間 約15分

ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen

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むかしむかし、あるところに、ひとりの商人がいました。この人は、たいへんなお金持で、町の大通りをすっかりと、そのうえ小さな横町までも、銀貨でぎっしりと、しきつめることができるくらい、お金を持っていました。けれども、そんなことはしませんでした。もっとそれとはちがった、お金の使い方を知っていたのです。つまり、一シリング出せば、一ターレルもどってくる、というようなやり方です。この人は、そういうりこうな商人でした。――そのうちに、この人は死にました。

息子は、そのお金をみんな、もらいました。そして、毎日毎日、楽しくくらしていました。毎晩、仮装舞踏会へ出かけたり、お金の札でたこをこしらえたり、海へ行けば、石のかわりに、金貨で水切りをしてあそんだりしました。こんなふうでは、お金がいくらあったところで、すぐになくなってしまいます。ほんとにそのとおりで、どんどんなくなっていきました。しまいには、とうとう、四シリングだけになってしまいました。着るものといえば、スリッパが一足と、古い寝巻が一つあるだけです。

こうなると、友だちもだれひとり、相手にしてくれるものはありません。だって、これでは、大通りをいっしょに歩いても、はずかしくてやりきれませんからね。でも、なかに、親切な友だちがひとりいて、その友だちが、古いトランクを送ってよこして、

「荷物でも入れたまえ」と、言ってくれました。ほんとうに、なんといっていいかわからないほど、ありがたいことでした。といっても、このトランクにつめるようなものは、なんにもありません。そこで、自分が、その中にすわりました。

ところで、これはまた、まことにふしぎなトランクでした。錠をおせば、このトランクは、たちまちとびだすしかけになっていたのでした。ですから、この息子が錠をおすと、トランクは息子を乗せたなり、ヒューッ、と、えんとつの中をつきぬけて、高く高く雲の上までとびあがってしまったのです。そして、なおも、さきへさきへと、とんでいきました。

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